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【健康書評】筋肉が全て——脂肪より筋肉不足が問題だとライオン医師が明かす理由

ガブリエル・ライオン医師の著書『筋肉が全て』をもとに、「肥満の本質は脂肪過多ではなく筋肉不足」という医学的根拠と、今日から実践できる食事・運動戦略を解説します。

「太りすぎが問題だ」という常識を、一冊の本が根底から覆しました。アメリカの医師ガブリエル・ライオンさんが著した『筋肉が全て(原題:Forever Strong)』(ダイヤモンド社、2026年3月)は、ニューヨーク・タイムズほか複数の全米ベストセラーリストに登場し、健康書の世界に大きな波紋を投げかけています。本書が伝えるメッセージはシンプルですが、私たちの多くが見落としていた視点です。問題は脂肪の多さではなく、筋肉の少なさだということです。この記事では書籍の核心をできるだけ平易に紹介し、あなたが明日から試せる行動を一緒に考えます。

「太りすぎ」ではなく「筋肉不足」が問題だった

医療や健康の話題で「肥満」が語られるとき、焦点はほとんど脂肪に当たります。体脂肪率を下げよう、カロリーを減らそう——そういった議論が中心です。しかしライオン医師さんは、その前提そのものに疑問を呈します。

本書の核心にある概念は「筋肉中心医学(Muscle-Centric Medicine)」です。これは、筋肉を「動かすための部品」ではなく「体全体の代謝と健康を支配する内分泌臓器」として捉え直す考え方です。内分泌臓器というのは、ホルモンや信号物質を分泌して他の臓器に働きかける組織のことです。膵臓がインスリンを出すように、筋肉もまた独自の信号物質を全身に送り出しているとライオン医師さんは説明します。

筋肉は動かすためだけの臓器ではない

体の筋肉量は、加齢とともに自然に減っていきます。30代から40代にかけて年間約0.5〜1%のペースで筋肉は失われ、60代を超えるとその速度が上がります。この現象を「サルコペニア(筋肉減少症)」と呼びます。

問題は、筋肉が減ると代謝が落ちるだけではないということです。血糖の取り込みが悪くなり、インスリン感受性が低下し、脂肪が蓄積しやすくなります。つまり「太りやすい体」の原因の多くは、筋肉不足にあるというわけです。ライオン医師さんは「肥満を脂肪の問題として治療しようとするから結果が出ない。筋肉不足の問題として捉え直せば解決策も変わる」と主張しています。

マイオカインが脳と心を変える

筋肉が収縮するとき、「マイオカイン」と呼ばれる物質が血流に放出されます。マイオカインは「筋肉(myo)から分泌されるサイトカイン(免疫・代謝を調節するタンパク質)」の総称で、現在150種類以上が発見されています。

これらが脳に届くと、認知機能の保護・うつ症状の改善・集中力の向上に関与することが研究で示されています。「運動すると気分がよくなる」「集中力が高まる」という感覚は、このマイオカインの働きによるものです。筋肉は脳や心にも直接働きかける臓器だということを、ライオン医師さんは豊富な臨床データを引用しながら説明しています。

エクササイズ①: 今日の運動前後の気分と集中力を1〜5の数字でメモしてみてください。1週間続けるだけで、筋肉と脳の関係を体感できます。

筋肉を増やす食事戦略

本書の後半で詳しく展開されるのが、食事の戦略です。ライオン医師さんのアプローチは「カロリー制限」ではなく「タンパク質の最適化」を中心に置いています。

タンパク質の目安量と考え方

一般的に推奨されるタンパク質摂取量は「体重×0.8g/日」とされています。しかしライオン医師さんはこれを不十分だと指摘し、筋肉を維持・増加させるには 体重1kgあたり1.6〜2.2g が必要だと述べています。

体重60kgの人であれば、1日96〜132gのタンパク質が目安です。これはかなり多く感じるかもしれません。食品で換算すると、鶏むね肉100gに約23g、卵1個に約6g、木綿豆腐150gに約11gのタンパク質が含まれています。

食品タンパク質
鶏むね肉100g約23g
1個(60g)約6g
ギリシャヨーグルト150g約15g
木綿豆腐150g約11g
サーモン100g約20g

また、タンパク質は「一度に大量に食べる」より「毎食に均等に分散する」ほうが筋合成に効率的だとライオン医師さんは強調します。朝食を抜いてランチとディナーだけで補おうとするより、3食それぞれで20〜40gを摂るほうが体は筋肉を作りやすいということです。

炭水化物・脂質との付き合い方

「タンパク質を増やすと他の栄養素はどうすればいいの?」という疑問は当然です。ライオン医師さんの答えは意外とシンプルです。炭水化物も脂質も「筋トレの強度と自分の目的に合わせて調整する」ものであり、どちらかを完全に排除する必要はないということです。

重要なのは順番と質です。食事のたびにまずタンパク質の量を確保し、残りのカロリー枠で炭水化物と脂質を選ぶというアプローチを本書は勧めています。精製された糖質や超加工食品を減らしながら、全粒穀物・根菜・良質な脂質(オリーブオイル・アボカドなど)を組み合わせることが、筋肉を育てながら体脂肪を管理する現実的な方法です。

エクササイズ②: 今日の昼食でタンパク質を意識して選んでみてください。食前に「このメニューにタンパク質源はあるか?」と一度確認するだけで、食事の質が変わります。

最小の時間で最大の効果を出す運動法

食事と並んで本書が力を入れているのが、運動——特にレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の重要性です。

レジスタンストレーニングを優先する理由

有酸素運動は心肺機能に良く、カロリー消費もあります。しかしライオン医師さんは、筋肉量の維持・増加という観点では「レジスタンストレーニングが最優先」だと明言しています。

理由は代謝にあります。筋肉は安静時にもエネルギーを消費する「代謝エンジン」です。筋肉量が多いほど、何もしていない時間にも多くのカロリーが使われます。また、筋トレ後24〜48時間は「アフターバーン効果」として代謝が高い状態が続くことも研究で示されています。

本書が推奨する頻度は 週2〜3回、1回40〜60分 です。毎日長時間やる必要はありません。むしろ適切な回復時間(筋肉が修復・成長する時間)を取ることが、効果を最大化するために不可欠です。

「複利」で積み上がる筋トレの効果

ライオン医師さんが繰り返し使うたとえが「筋トレは複利だ」というものです。金融の世界で利息に利息が付いて雪だるまのように増えていくように、筋肉も継続することで少しずつ、しかし確実に積み上がっていきます。

1回の筋トレで体が劇的に変わることはありません。しかし週2回を6ヶ月続けると、筋肉量・代謝・体の感覚は明確に変わっているはずです。この「見えにくい積み上げ」に信頼を置けるかどうかが、長期的な成果を左右するとライオン医師さんは言います。

「40代を過ぎてから始めても遅い」という声をよく聞きますが、本書はその思い込みも否定しています。筋肉の適応能力(トレーナビリティ)は60代・70代でも維持されており、始めた年齢よりも「続けること」のほうがはるかに重要です。

エクササイズ③: 今週中に「スクワット10回 × 3セット」だけを一度やってみてください。特別な器具は不要です。それが習慣の起点になります。

まとめ

ガブリエル・ライオン医師さんの『筋肉が全て』が問いかけるのは、「あなたは自分の体をどこから変えようとしていますか?」ということです。脂肪を減らすことに意識を向けるのではなく、筋肉を育てることを起点にする——この視点の転換が、本書の最も大切なメッセージです。

筋肉は見た目だけの問題ではありません。代謝、血糖管理、脳の健康、心の安定、そして老後の自立した生活——すべてに筋肉は関わっています。タンパク質を意識した食事と、週2〜3回の筋トレ。シンプルですが、この2つを習慣にすることが、長く健康でいるための最も確実な投資です。

今日から試せることはひとつだけで十分です。まず昼食にタンパク質源を意識して加えるところから始めてみてください。小さな一歩が、複利のように積み上がっていきます。