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【読書】億までの人、億からの人——ゴールドマン・サックス17年が明かす「兆人」のマインド

ゴールドマン・サックスで17年間300人超の超富裕層と交流した田中渓さんが書いた10万部ベストセラー『億までの人、億からの人』から、「兆人」に共通する思考・習慣・人間関係の築き方を解説します。

「年収1億円を超える人は、いったい何が違うのか」——この問いに正面から答えようとした本が、田中渓さんの『億までの人、億からの人』(徳間書店、2024年10月)です。ゴールドマン・サックスに17年間勤め、日本の投資部門のトップを務めた著者が、20カ国以上で300人超の億万長者・兆円資産家と直接交流した経験をもとに書き上げた一冊で、10万部を突破するベストセラーになっています。本書が際立っているのは、「儲かる株の選び方」や「節税テクニック」ではなく、富裕層の思考の構造を解き明かすことに徹している点です。

「億を稼ぐ方法」ではなく「億になる人の思考」を教える本

本書を読んで最初に驚くのは、著者が「投資術」をほとんど語らないことです。ゴールドマン・サックスという名前を聞けば、複雑な金融商品や高度な運用戦略を期待する方も多いでしょう。しかし田中さんが本書で掘り下げるのは、富裕層が持つ「マインドセット」と「日常の習慣」です。

田中さんは本書の中で、年収1億円超・資産が兆単位に達する層を「兆人(ちょうじん)」と呼んでいます。兆人とは単に資産が多い人のことではなく、お金・時間・人間関係に対する考え方が根本から違う人たちのことです。

著者が見た「兆人」たちの共通点

田中さんが300人超の超富裕層と交流して気づいたのは、彼らの共通点が「運が良かった」でも「特別な才能があった」でもなかったということです。むしろ共通していたのは、次のような思考の特徴でした。

  • 長期視点で動く: 目先の利益より10年・20年後の自分の位置を基準に判断する
  • お金を「道具」として扱う: お金そのものを目的にせず、何を実現するための手段かを常に意識する
  • 「失敗」を学習コストと捉える: リスクを恐れず、失敗から得た経験を次の投資とみなす

これらは読むと「当たり前では」と感じるかもしれません。しかし田中さんが強調するのは、兆人はこれを「頭でわかっている」のではなく、無意識に実行しているという点です。知識として持つことと、体に染み込ませることの間には、大きな溝があります。

エクササイズ①: 直近1週間で自分が行ったお金の使い方を3つ振り返り、それぞれ「これは何を実現するための支出か」を一言で書いてみてください。「なんとなく」や「気分で」が多いほど、思考の見直し余地があります。

お金と時間の哲学——富裕層が当たり前にやっていること

本書の第2章から第4章にかけて展開されるのが、富裕層のお金と時間に対する哲学です。ここが本書の核心部分であり、最も多くの読者が「考え方が変わった」と感じるパートです。

お金はどう使うか、ではなく何のために使うか

一般的な「お金の使い方」指南書は、「節約しましょう」「投資信託を始めましょう」といった具体的な行動を勧めます。しかし田中さんが兆人たちから学んだのは、その前段階——「なぜそのお金を使うのか」という問いを持つことの重要性です。

兆人はお金を使う前に、必ずその支出が「消費」「投資」「浪費」のどれに当たるかを意識しているといいます。

分類定義
投資将来の収益・価値につながる支出教育、健康管理、人脈形成
消費生活に必要な支出食費、家賃、光熱費
浪費リターンのない衝動的な支出不要なサブスク、衝動買い

重要なのは、兆人は「投資」の定義が広いということです。自己啓発書を買うことも、ジムに通うことも、質の高い食事をとることも、すべて将来の自分に対する投資として捉えます。節約のために健康を犠牲にするような「消費を削る」発想は、兆人にはほとんど見られなかったと田中さんは述べています。

時間の価値を「円換算」で考える

第4章「時間の使い方」で田中さんが紹介するのが、「自分の時給を意識する」という考え方です。これは単に「時給を上げましょう」という話ではありません。

兆人たちは、あらゆる行動を「この時間を使う価値があるか」で判断します。たとえば時給が高くなればなるほど、自分でやるより外注したほうが合理的なタスクが増えます。掃除・雑務・移動時間の最適化——これらにお金をかけることを「節約の失敗」ではなく「時間への投資」と捉えるのが兆人の発想です。

あなたが今やっている仕事の中で、「これは本当に自分がやるべきか」と問える余白があるかどうか——それが時間の哲学の入り口です。

エクササイズ②: 今週の作業リストを見て、「これは自分にしかできないか?」と問いを立ててみてください。外注・自動化・削除できるタスクが一つでも見つかれば、思考が変わり始めたサインです。

生活習慣と人間関係——「億からの人」になるための土台

本書の後半、第5章・第6章では、より実践的なテーマが展開されます。生活習慣と人間関係です。前半の哲学的な議論が、ここで具体的な行動に落とし込まれます。

小さな習慣が思考を作る

田中さんが兆人たちを観察して気づいたことのひとつが、彼らの生活習慣の「地味さ」です。派手な朝活やSNS映えするルーティンではなく、睡眠の質・食事の内容・運動の継続という、きわめてシンプルな習慣を長年続けている人が多かったといいます。

これは「健康のため」という理由だけではありません。体の状態が思考の質に直結するからです。判断力・集中力・感情のコントロール——これらはすべて体のコンディションに左右されます。兆人たちは、「頭を最高の状態に保つための投資」として健康習慣を位置づけているのです。

また、読書・情報収集の習慣も共通して見られました。ただし兆人の情報収集は「ニュースを広く浅く見る」ではなく、「自分の専門領域を深く掘り下げる」スタイルが多いといいます。広く浅くではなく、狭く深く。そこから生まれた専門性が、やがて大きな信頼と収益につながるという考え方です。

人間関係こそ最大の資産

第6章は本書の中でも特に印象的なパートです。田中さんは「兆人にとって、人間関係は最大の資産である」と断言します。

兆人たちの人脈の特徴は「量」ではなく「質」です。名刺を何百枚交換するより、深く信頼できる10人との関係を育てることを優先します。そしてその関係の作り方にも独特の哲学があります。「まず自分が与える側になる」というスタンスです。

ギブ・アンド・テイクではなく、ギブ・アンド・ギブ——与え続けることで、相手が自発的に返したいと思う関係を作る。それが兆人の人間関係の本質だと田中さんは言います。これは抽象的に聞こえますが、具体的には「相手が今何を必要としているかを先回りして考え、行動する」ことの積み重ねです。

エクササイズ③: 今日、自分の連絡先リストから「最近疎遠になっているけれど大切にしたい人」を一人選び、何か役立つ情報や一言を送ってみてください。人間関係の資産は、使わないと目減りします。

まとめ

田中渓さんの『億までの人、億からの人』が伝えているのは、「億を稼ぐテクニック」ではなく「億になる人の思考の構造」です。お金の哲学、時間の価値、習慣の積み上げ、人間関係の質——これらはどれも、今日から意識を変えることができるものです。

本書を読んで最も重要だと感じるのは、「兆人と普通の人の差は、才能でも運でもなく、思考の習慣化にある」というメッセージです。思考は筋肉と同じで、使い続ければ鍛えられます。最初は意識しなければできなかったことが、やがて無意識にできるようになる。そのプロセスが、「億までの人」と「億からの人」を分けているのかもしれません。

まず一つだけ始めるとすれば、今日の支出を「投資・消費・浪費」に仕分けしてみることをお勧めします。その小さな問いが、思考を変える最初の一歩になります。