<?xml version="1.0" encoding="utf-8" standalone="yes"?><rss version="2.0" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"><channel><title>中野信子 on hagizo.blog</title><link>https://blog.gizwoo.com/tags/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E4%BF%A1%E5%AD%90/</link><description>Recent content in 中野信子 on hagizo.blog</description><generator>Hugo -- gohugo.io</generator><language>en</language><lastBuildDate>Thu, 21 May 2026 04:39:19 +0900</lastBuildDate><atom:link href="https://blog.gizwoo.com/tags/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E4%BF%A1%E5%AD%90/index.xml" rel="self" type="application/rss+xml"/><item><title>【読書メモ】まじないの科学——なぜ人は「おまじない」を信じ、それは本当に効くのか</title><link>https://blog.gizwoo.com/majinai-science-belief-ritual-rn7vbq2mxk/</link><pubDate>Wed, 20 May 2026 19:34:48 +0900</pubDate><guid>https://blog.gizwoo.com/majinai-science-belief-ritual-rn7vbq2mxk/</guid><description>&lt;p&gt;試験前に縁起を担ぐ、スポーツ選手がルーティンにこだわる、厄除けのお守りを持ち歩く——こうした「おまじない」的な行動は、現代人の日常にも深く根付いています。では、それらは単なる思い込みにすぎないのでしょうか。脳科学者の中野信子さんが書いた『まじないの科学』は、古くから人間社会に存在してきた「まじない」を脳科学と心理学の視点から読み解き、その意外な効果と人間本来の認知の仕組みに光を当てた一冊です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="まじないとは何か科学が向き合う問い"&gt;「まじない」とは何か——科学が向き合う問い
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;「まじない」という言葉を聞くと、呪術や迷信の世界を連想する人も多いでしょう。しかし本書が問うのは、それが「本物かどうか」という二択ではありません。「なぜ人間はまじないを必要とし、それがどんな仕組みで機能するのか」という、より深い問いです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;人類の歴史を振り返れば、まじないや儀式は文化を問わず普遍的に存在してきました。雨乞いの儀式、出産前のお守り、勝負の前の験担ぎ——場所も時代も異なれど、人間は常に「見えない力」に働きかけようとしてきました。この普遍性こそが、まじないを単純に「迷信」として切り捨てられない理由のひとつです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;中野さんは民俗学・認知心理学・神経科学の知見を横断しながら、まじないという行為の背後にある人間の認知構造を丁寧に解き明かしていきます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="プラセボ効果信じる力は本物の力になる"&gt;プラセボ効果——「信じる力」は本物の力になる
&lt;/h2&gt;&lt;h3 id="思い込みが現実を変える"&gt;思い込みが現実を変える
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;本書で繰り返し登場する概念が「プラセボ効果」です。プラセボとは、有効成分を含まない偽の薬のこと。にもかかわらず、それを「効く薬だ」と信じて服用した患者が実際に症状の改善を示すことが、数多くの医学研究で確認されています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これはまじないと直接つながります。縁起のよいお守りを持っていると安心できる、「この言葉を唱えれば大丈夫」と信じることで緊張が和らぐ——こうした心理的な変化は、脳の働きを通じて身体にも実際の影響を与えます。ストレスホルモンが減少し、集中力が高まり、パフォーマンスが向上することがある。「気のせい」で終わらない、れっきとした生理的変化です。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="スポーツと儀式の科学"&gt;スポーツと儀式の科学
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;プロスポーツの世界では、試合前のルーティン行動が広く研究されています。打者がバッターボックスに入る前に必ず同じ動作をする、テニス選手がサーブ前に一定回数ボールをつく——こうした行動は迷信ではなく、心理的な「準備スイッチ」として機能しています。ルーティンを行うことで不安レベルが下がり、集中状態に入りやすくなる効果が実験的に示されているのです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;中野さんはこうした事例を通じて、「まじないは無意味ではなく、使い方によっては合理的な心理ツールになり得る」という視点を提示します。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="認知バイアスが効果を生み出す仕組み"&gt;認知バイアスが「効果」を生み出す仕組み
&lt;/h2&gt;&lt;h3 id="確証バイアスと記憶の選択"&gt;確証バイアスと記憶の選択
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;まじないが「効いた」と感じるもうひとつの理由が、認知バイアスの存在です。なかでも重要なのが「確証バイアス」——自分の信念を支持する情報だけを選択的に記憶・解釈する傾向です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;お守りを持っていた日に良いことが起きれば「やっぱり効いた」と記憶に刻まれます。一方、何も起きなかった日や悪いことが起きた日のことは「たまたま」として処理されやすい。この非対称な記憶の蓄積が、まじないへの信頼を強化し続けます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これは道徳的に批判されるべき「騙されやすさ」ではなく、人間の脳が本来そういう構造を持っているという話です。不確実な世界でパターンを見つけようとする本能が、確証バイアスとして現れているのです。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="制御感と不安の関係"&gt;制御感と不安の関係
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;中野さんが特に印象的な洞察を与えてくれるのが、「まじないは不安への対処機能を持つ」という指摘です。人間は自分でコントロールできない状況に強い不安を覚えます。受験、スポーツの試合、手術——こうした場面で「何かできることをする」という行為そのものが、無力感を和らげ、心理的な安定をもたらします。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;たとえ科学的には根拠がなくても、「自分は何かをした」という感覚が、脳の不安回路を落ち着かせる。まじないの多くは、この「制御感の擬似的な回復」として機能しているのです。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="儀式が持つ社会的文化的な力"&gt;儀式が持つ社会的・文化的な力
&lt;/h2&gt;&lt;h3 id="集団をつなぐ儀式の役割"&gt;集団をつなぐ儀式の役割
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;まじないや儀式には、個人の心理効果だけでなく、集団を結束させる社会的機能もあります。同じ儀式を共有することで、「私たちは同じ仲間だ」という連帯感が生まれます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;結婚式・葬式・入学式といった通過儀礼はその典型です。儀式の「型」を共に行うことで、参加者はその場の意味と感情を共有し、社会的なつながりを確認します。宗教的なまじないや祈りの行為も、コミュニティの凝集力を高める機能を担っていると中野さんは論じます。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="現代に生きるまじないの形"&gt;現代に生きるまじないの形
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;SNS時代の現代でも、まじない的な行為は形を変えて存在しています。受験生が「合格祈願」の投稿に「いいね」を集めること、スポーツ観戦中に特定のポーズを取り続けること、ラッキーアイテムを手放せないこと——これらはすべて、脳の「制御感」と「つながり」を求める本能の現代的な発露です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;中野さんはこれらを笑い飛ばすのではなく、「それもひとつの合理的な適応だ」という視点で受け止めます。迷信を持つことが知性の低さの証拠ではなく、不確実性と向き合う人間の知恵の産物だという見方です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="まとめ"&gt;まとめ
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;中野信子さんの『まじないの科学』が教えてくれるのは、まじないや迷信を「信じるか信じないか」の二項対立で語ることの浅さです。プラセボ効果・認知バイアス・制御感の回復・社会的結束——これらの視点を重ねると、まじないが人間の心理と社会に果たしてきた役割の豊かさが見えてきます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「科学的に証明されていない＝無意味」ではない。人間の脳と社会の仕組みをひとつの鏡として映し出す「まじない」という現象を通じて、自分自身の認知の癖や、信じることの力について、改めて考えさせてくれる一冊です。同じ著者の『脳の闇』『人は、なぜ他人を許せないのか？』と合わせて読むと、人間の脳が持つ不思議な仕組みがより立体的に浮かび上がってきます。&lt;/p&gt;</description></item><item><title>【読書メモ】脳の闇——中野信子が暴く、欲望と権力の神経科学</title><link>https://blog.gizwoo.com/brain-darkness-nakano-nobuko-xp7mkq2nws/</link><pubDate>Wed, 20 May 2026 11:00:00 +0900</pubDate><guid>https://blog.gizwoo.com/brain-darkness-nakano-nobuko-xp7mkq2nws/</guid><description>&lt;p&gt;人はなぜ権力を手にすると変わってしまうのか。なぜ地位や名声を得ても満足できず、さらに求め続けるのか。脳科学者の中野信子さんが書いた『脳の闇』（2023年、新潮新書）は、こうした人間の「暗い側面」を脳科学と進化心理学の視点から真正面に論じた一冊です。善悪や道徳の話ではなく、「なぜそうなるのか」という仕組みを知ることで、自分自身や他者への見方が変わってきます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="脳の闇とは何か"&gt;「脳の闇」とは何か
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;中野さんがこの本で取り上げるのは、権力欲・支配欲・承認欲求・嫉妬・スキャンダルへの興味といった、いわば人間の「暗い欲望」です。こうした感情や衝動は一般的にネガティブなものとして語られますが、著者はそれを道徳的に断罪するのではなく、「なぜ脳はそう動くのか」という問いから解き明かそうとします。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;鍵となるのは「快楽と報酬」の問題です。権力を行使すること、他者より優位に立つこと、称賛を浴びること——これらはすべて脳の報酬系を刺激し、ドーパミンを分泌させます。前著『人は、なぜ他人を許せないのか？』で「正義中毒」を論じた中野さんが、今度は支配する側の脳の仕組みに踏み込んでいるのがこの本です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="権力が人を変える仕組み"&gt;権力が人を変える仕組み
&lt;/h2&gt;&lt;h3 id="権力者の脳で起きていること"&gt;権力者の脳で起きていること
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;本書で特に印象的なのが、「権力を持つと共感能力が低下する」という研究の紹介です。権力を得た人間は、相手の気持ちを想像する能力——つまり共感——が実際に弱まることが神経科学的に示されています。これは性格の問題ではなく、脳の変化です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;なぜそうなるのか。人が弱い立場にいるとき、相手の感情を読み取ることは生存に直結します。上司の機嫌、同僚の意図、顧客の本音——それらを察知するために、私たちは常にアンテナを張っています。ところが権力を持つと、他者の感情に依存する必要が薄れるため、共感回路が使われなくなり、機能が低下してしまうのです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これは「権力者は冷たい」という経験則が、単なる印象ではなく脳の仕組みとして説明できることを意味します。組織のトップや政治家が「現場感覚を失った」と言われる現象も、こうした視点から理解できます。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="ドーパミンともっと欲しいのループ"&gt;ドーパミンと「もっと欲しい」のループ
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;権力欲が止まらない理由も、ドーパミンの仕組みで説明されます。ドーパミンは「得た瞬間」ではなく「得ようとする過程」で最も多く分泌される物質です。つまり目標を達成したときより、目標に向かって進んでいるときに脳は最も強い快感を覚えます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;このため、権力や地位をある程度手に入れた人が「まだ足りない」と感じるのは意志の問題ではなく、脳の仕組みそのものです。達成するたびに次の目標が生まれ、快感を求めてさらに上を目指す——このループから抜け出すことは、構造的に難しいのです。中野さんは「欲望は満たされることなく、常に更新され続ける」と表現しています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="承認欲求嫉妬スキャンダル好きの神経科学"&gt;承認欲求・嫉妬・スキャンダル好きの神経科学
&lt;/h2&gt;&lt;h3 id="なぜ承認が止まらないか"&gt;なぜ承認が止まらないか
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;SNSで「いいね」をもらうと嬉しく、もらえないと不安になる——この感覚の正体も本書で丁寧に解説されています。他者からの承認は社会的動物としての人間にとって、食事や安全と並ぶ根本的な欲求です。集団から切り離されることは、かつては死を意味しました。承認を求める脳の回路は、その名残です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;問題は、SNSの設計がこの回路を意図的に刺激するよう作られている点です。「いいね」の数、フォロワー数、拡散数——これらは全て承認の数値化であり、比較しやすい形で可視化されています。中野さんは、SNS上での承認競争が「本来満たされるはずのない欲求を、永遠に追いかけさせる装置」になっていると指摘します。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="嫉妬の正体と社会的機能"&gt;嫉妬の正体と社会的機能
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;嫉妬は多くの人が「みっともない感情」として隠そうとします。しかし中野さんは、嫉妬も進化的に意味のある感情だと論じます。嫉妬の対象は、自分と近い立場の相手に向きやすいという特徴があります。遠い存在（大富豪や超有名人）にはあまり嫉妬しないのに、同期や友人の成功には強く反応する。これは「自分も届き得る存在」への嫉妬が、競争意欲を引き出す仕組みだからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;また、嫉妬は不平等への感受性と結びついています。社会のルールが守られているかを監視し、ずるをしている者を見つけ出す——その機能が嫉妬という感情として現れることもあります。道徳的な怒りと嫉妬の境界は、思っているほど明確ではありません。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="他人のスキャンダルに惹きつけられる理由"&gt;他人のスキャンダルに惹きつけられる理由
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;有名人の不倫や失墜のニュースが、なぜこれほど人々の関心を集めるのか。本書はその理由も脳科学で説明します。高い地位にある人物の失墜は、社会的序列の変動を示します。かつての集団社会では、誰がどのポジションにいるかを把握することは生存に関わる重要情報でした。序列の変動——特にトップの失脚——は、脳にとって優先度の高い情報として処理されるのです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;加えて、権力者の失墜には「自分より優れた者が転落した」という相対的な安心感を脳にもたらします。これもまた道徳的な問題ではなく、脳の報酬系が関与した反応です。スキャンダル報道が止まない背景には、こうした神経科学的な需要があります。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="闇を知ってどう生きるか"&gt;「闇」を知って、どう生きるか
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;本書が他の自己啓発書と大きく異なるのは、「だからこうしなさい」という処方箋をあまり強調しない点です。中野さんは「これらの衝動は消えない。消そうとしても無駄だ」という立場をとります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;では何ができるのか。著者が示唆するのは「自分の脳の癖を知ること」です。権力を持ったとき共感が落ちやすいと知っていれば、意識的に他者の声を聞こうとできます。承認欲求がSNSで刺激されると知っていれば、依存の構造に気づきやすくなります。嫉妬を感じたとき、それが「自分が本当に望むものへの手がかり」だと解釈することもできます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「闇」を否定するのではなく、「闇の仕組みを理解した上で付き合う」という姿勢——それが本書の根底にある視点です。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="まとめ"&gt;まとめ
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;『脳の闇』は、人間の欲望や権力への衝動を「悪いもの」として断罪するのではなく、脳科学という客観的なレンズで観察した一冊です。中野信子さんの文章は常に読みやすく、難解な神経科学の知見を日常の言葉に落とし込む力があります。「自分はなぜこう感じるのか」「あの人はなぜああ動くのか」——そんな問いを持ったことがある人なら、必ず何かが腑に落ちる本です。前著『人は、なぜ他人を許せないのか？』と合わせて読むと、人間の脳と社会の関係がより立体的に見えてきます。&lt;/p&gt;</description></item><item><title>【読書メモ】人は、なぜ他人を許せないのか？——「正義中毒」の脳科学</title><link>https://blog.gizwoo.com/why-cant-forgive-others-nakano-bm4krp9wqz/</link><pubDate>Wed, 20 May 2026 10:00:00 +0900</pubDate><guid>https://blog.gizwoo.com/why-cant-forgive-others-nakano-bm4krp9wqz/</guid><description>&lt;p&gt;SNSで誰かが炎上しているとき、どこかスカッとした気持ちになったことはないでしょうか。脳科学者の中野信子さんが書いた『人は、なぜ他人を許せないのか？』（2020年、アスコム）は、そうした「許せない」という感情の正体を脳科学の観点から丁寧に解き明かした一冊です。「自分は正しい、あいつが悪い」という確信がなぜこれほどまでに気持ちよく感じられるのか——その問いに答えながら、私たちが取れる具体的な対策まで示してくれます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="正義中毒とは何か"&gt;「正義中毒」とは何か
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;本書の核心にあるキーワードが「正義中毒」です。これは、社会のルールや規範から外れた人物を見つけ出し、罰することに強い快感を覚える脳の状態を指します。中野さんはこの言葉を使って、現代社会で頻発する集団的なバッシングや炎上現象を神経科学的に説明します。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「正義」という言葉には揺るぎない正しさのイメージがあります。しかし中野さんが指摘するのは、人が「正義を行使している」と感じているとき、実は脳内でドーパミン（快楽物質）が分泌されているという事実です。つまり誰かを糾弾する行為は、脳にとって一種の「ご褒美」なのです。一度その快感を覚えると、また同じ状況を求めるようになる——だから「中毒」と呼ばれます。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="脳の報酬系が活性化するメカニズム"&gt;脳の報酬系が活性化するメカニズム
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;人間の脳には「報酬系」と呼ばれる回路があります。食事や社会的な承認など、生存・繁栄に役立つ行動をとったときにドーパミンが放出され、「また同じことをしたい」という動機を生み出す仕組みです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;中野さんが紹介する研究によれば、社会的なルール違反者を罰するときにも、この報酬系が活性化することが確認されています。つまり「あの人は許せない、制裁を加えるべきだ」と感じて声を上げることは、食事と同様の快感をもたらし得る行為なのです。これが正義中毒が「やめられない」理由の核心です。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="sns時代に加速する炎上文化"&gt;SNS時代に加速する炎上文化
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;スマートフォンとSNSの普及は、正義中毒の発露の場を劇的に拡大しました。かつては居酒屋や家庭内に留まっていた「あの人は許せない」という感情が、今や世界中に向けて即座に発信・共有できます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;さらに問題なのは、正義中毒的な発言がSNS上で「いいね」や拡散を集めやすいという構造です。強い怒りや非難は人々の共感を呼びやすく、それが「いいね」という社会的承認を通じてさらにドーパミン分泌を促す。炎上が炎上を呼ぶ連鎖の背景には、こうした脳の仕組みが深く関わっています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="なぜ人は他人を許せないのか脳科学的な理由"&gt;なぜ人は他人を許せないのか——脳科学的な理由
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;「許せない」という感情は単なる道徳的反応ではありません。中野さんは、それが人間の進化の歴史に深く根ざした本能だと論じます。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="集団本能と敵の認定"&gt;集団本能と「敵」の認定
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;人間はもともと数十人規模の小集団で生きる生物でした。その時代、集団の秩序を乱す者は生存を脅かす脅威でした。ルール違反者を素早く発見し排除する能力は、集団全体の生き残りに直結していたのです。この本能は現代にもそのまま引き継がれています。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「あいつは私たちと違う」「ルールを守っていない」と感じた瞬間、脳は相手を「敵」として認定し、排除の衝動を生み出します。SNSで他人を激しく叩くとき、私たちは先史時代の部族防衛本能を現代のプラットフォームで発動させているともいえるのです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;さらに厄介なのは、この「敵認定」が一度起きると、以降は相手の言動をすべて悪意あるものとして解釈するバイアスが強化されることです。中野さんはこれを「認知の歪み」と表現し、正義中毒の状態に陥ると客観的な判断が著しく困難になると指摘します。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="前頭前野と扁桃体のせめぎ合い"&gt;前頭前野と扁桃体のせめぎ合い
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;脳科学の観点では、「許せない」という感情に2つの主要な領域が関わっています。ひとつは&lt;strong&gt;扁桃体（へんとうたい）&lt;/strong&gt;、もうひとつは**前頭前野（ぜんとうぜんや）**です。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;扁桃体は感情の中枢です。危険や不快を感知すると即座に反応し、「怒り」「恐怖」「嫌悪」といった強烈な感情を生み出します。一方、前頭前野は理性的思考を担い、衝動の抑制・長期的視点での判断・他者の立場の想像などを行います。ヒトが他の動物と比べて前頭前野が発達しているのも、こうした高度な社会的判断が求められるからです。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;「許せない」という感情が爆発するとき、扁桃体は全力で「やっつけろ」と叫んでいます。平静な状態なら前頭前野が「待て、本当にそうか？」と踏みとどまれますが、感情が高ぶるほど前頭前野の働きは抑制されやすくなります。SNSで感情的な投稿をして後で後悔する、というよくある経験はまさにこの構造から生まれます。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="正義中毒から距離を置くために"&gt;正義中毒から距離を置くために
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;本書が単なる脳科学の解説書にとどまらないのは、「では、どうすればいいのか」という具体的な処方箋も示している点です。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="自分の正義を疑う一歩"&gt;自分の「正義」を疑う一歩
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;中野さんが繰り返し強調するのは、「自分の正義は絶対ではない」という認識を意識的に持ち続けることです。「あの人は間違っている」と感じたとき、まず一呼吸置いて「なぜ自分はそう感じるのか？」「本当にそうなのか？」「別の見方はないか？」と問い直す習慣が、正義中毒への有効な対抗手段になります。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;これは精神論ではなく、脳のトレーニングでもあります。前頭前野を意識的に使う訓練を続けることで、扁桃体の暴走を抑える回路が強化されていくのです。批判や怒りを感じても、すぐに行動せず少し時間を置いて再考する——そのひと手間が、衝動に飲み込まれないための第一歩です。&lt;/p&gt;
&lt;h3 id="異質なものに触れる機会を増やす"&gt;「異質なもの」に触れる機会を増やす
&lt;/h3&gt;&lt;p&gt;自分と異なる価値観や生き方を持つ人々に意識的に触れることも、中野さんが勧める実践のひとつです。「自分たちと違う＝敵」という回路は、同じ環境・同じ人間関係の中に閉じこもるほど強固になります。逆に、異なる文化・価値観に定期的に触れることで、この回路を弱め、多様性を自然に受け入れられる柔軟な脳へと変えていけます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;旅行や読書、異業種の人との対話、自分が普段見ないメディアをあえて読んでみる——日常の中で「知らない世界」と接点を作る行為が、長期的には正義中毒を防ぐ効果をもたらすと著者は述べています。&lt;/p&gt;
&lt;h2 id="まとめ"&gt;まとめ
&lt;/h2&gt;&lt;p&gt;『人は、なぜ他人を許せないのか？』が教えてくれるのは、「許せない」という感情は道徳の問題である以前に、脳の仕組みの問題だということです。正義中毒は特定の悪い人だけに起きるのではなく、進化の過程で組み込まれた人間共通の脳の反応です。その事実を知っているだけで、衝動に完全に飲み込まれるリスクをぐっと下げることができます。&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;誰かを激しく非難したくなったとき、「今、自分の扁桃体が暴走しているかもしれない」とわずかでも気づける余白を持つこと。中野信子さんの言葉は、自分自身の脳と静かに向き合うきっかけを与えてくれます。SNSが生活に深く入り込んだ現代だからこそ、一度手に取ってみてほしい一冊です。&lt;/p&gt;</description></item></channel></rss>