「悩むことが誠実さの証明だ」——そんな思い込みを、持っていませんか。明治大学法学部教授・堀田秀吾さんの最新作『考えてはいけないことリスト』は、世界の学術論文を根拠に「考えるだけで不幸になる25のこと」を整理した一冊です。本書の核心は、「考えないこと」を甘えではなく技術として捉え直すという、シンプルだけれど深い視点転換にあります。
「考えないこと」は、逃げではなく技術だ
堀田秀吾さんは、明治大学法学部の教授で、法言語学・心理言語学を専門とする研究者です。シカゴ大学で言語学の博士号を取得し、著書の累計発行部数は146万部を超えます。そんな堀田さんが2025年12月に上梓したのが本書です。
タイトルを見て「ちょっと過激では?」と感じた方もいるかもしれません。でも読んでみると、本書のメッセージはいたってシンプルです。「悩んでも変わらないことを悩むな。変えられることだけを考えろ」。これは精神論ではなく、心理学・認知科学・脳科学の研究が一貫して示している結論です。
反すう思考が脳にすること
「反すう思考」という言葉をご存知でしょうか。これは、同じ嫌な出来事や悩みをぐるぐると繰り返し考え続ける状態のことです。「あのとき、なぜあんなことを言ってしまったのか」「あの人はまだ怒っているだろうか」と、頭の中で何度も再生してしまう、あの状態です。
研究によれば、反すう思考は問題の解決に何も貢献しません。それどころか、集中力と判断力を低下させ、心のエネルギーを大量に消耗させることが確認されています。脳はその反すうのために膨大なリソースを使い続け、本当に考えるべきことへの余力がなくなってしまいます。「考えないこと」が技術である理由が、ここにあります。
「25の禁止リスト」を5つの罠で整理する
本書の骨格はシンプルです。「考えてはいけないこと25項目」と「考えてもいいこと12項目」を、5つのカテゴリで整理しています。
| カテゴリ | テーマ |
|---|---|
| 第1章:他人・評価編 | 他者からの評価を気にする思考 |
| 第2章:過去・後悔編 | 変えられない過去への反すう |
| 第3章:未来・不安編 | まだ起きていない不安への先取り心配 |
| 第4章:自己否定・抽象思考編 | 「なぜ自分はダメなんだ」という迷路 |
| 第5章:考えてもいいことリスト | 前に進める12の思考パターン |
他人の評価について考えるのをやめる
「あの人は自分のことをどう思っているだろう」——この問いに答えを出せるのは、その人本人だけです。他人の内面をいくら推測し続けても確認できません。
研究では、人は他者が自分のことをどれだけ気にしているかを過大評価しがちだとわかっています。これを「スポットライト効果」と呼びます。スポットライトとは舞台照明のこと——自分は常に注目の中心にいると錯覚してしまう心理です。実際には、他人はあなたのことをそこまで気にしていない。少し悲しいようですが、この事実は心をかなり楽にしてくれます。
不安の9割は現実にならない
ある研究では、人が感じる不安のうち約85〜91%は実際には起こらなかったという結果が出ています。私たちは、現実にならない出来事のために膨大な心のエネルギーを使っているのです。「もしも〇〇になったら」という思考は、リスク管理をしているようで、実は脳を消耗させているだけの場合がほとんどです。
「考えないこと」を今日から実践する
理屈はわかった。では、具体的にどうすればいいのか。本書が示す方法の中から、日常にすぐ取り入れられるものを紹介します。
思考に「15分の期限」を設ける
悩むことを禁止する必要はありません。「この問題については15分だけ考える」と決め、タイマーをセットして時間が来たら強制終了するのです。認知行動療法では「心配タイム」と呼ばれるこの技法は、反すう思考を制御する効果が確認されています。「いつでも悩んでいい」より「今だけ悩む」のほうが、かえってすっきりします。
「変えられるか?」を問いのスタートにする
何か悩みが浮かんだとき、まず自分に問いかけてみてください。「これは自分の行動で変えられることか?」もし答えが「ノー」なら、考え続けること自体が無駄なコストです。「イエス」なら、「では何をするか」という具体的な行動を考える。悩みを行動の問いに変換するだけで、思考の質が大きく変わります。
今日のエクササイズ
今、頭の中でぐるぐる考えてしまっていることを1つ紙に書き出してください。そして「これは自分で変えられるか?」と問いかけます。答えが「ノー」なら、その紙を折りたたんで引き出しの中へ。「とりあえず保留」を物理的な動作にするだけで、脳への負荷が少し下がります。答えが「イエス」なら、「明日できる小さな一歩」を1行書いてみましょう。
まとめ
『考えてはいけないことリスト』は、「もっと頑張れ」でも「ポジティブに考えろ」でもない、第三の選択肢を示しています。考えることをやめるのではなく、考える対象を選ぶ技術を身につけること——それが本書の伝えたいメッセージです。
「悩みがちで疲れている」「頭がいつも忙しい」と感じている方に、特に手に取ってほしい一冊です。208ページとコンパクトで、図解も交えた読みやすい構成になっています。
書誌情報 著者:堀田秀吾さん/出版社:フォレスト出版/発売日:2025年12月18日/208ページ